長期インターン
【人生は自分で決める】米国留学→商社→英国留学を決めた理由
インタビュー・レポ
今回は大橋久美子さんのインタビューをお届けします。大橋さんは文科Ⅲ類から文学部社会学科に進学され、博報堂に就職されたのちにJWT、LIFULLに転職され、現在は独立されてブランドストラテジストとしてご活躍されています。
ーまず初めに学生時代のお話を伺いたいのですが、どうして文科Ⅲ類に入学されたのですか?
文科Ⅲ類を受験したのは、元々日本史がとても好きで、大学でも国史学科(現:日本史学科)に行きたかったからです。私が通っていた中高は大学の付属校だったので、ほとんどの生徒がエスカレーター式で系列の大学に進学するような学校でした。しかし、その大学には日本史を学べる学部がなかったので、外部の大学を受験しようと思い、東大の文科Ⅲ類を志望しました。
──日本史を学びたいと思って文Ⅲに入学したなかで、文学部社会学科に進学されたのはなぜですか?
歴史が好きな理由を考えると、人間や人間の価値観に興味があったからだということに気づきました。その時代にどういう価値があったのかを知ることがとても好きだったんです。そうであれば、必ずしも歴史を学ぶ必要はないということを大学に入ってから感じました。特に影響を受けたのが、折原先生という社会学の先生が担当していた、デュルケームの『自殺論』やマックスウェーバーを扱った授業です。人が自殺を選ぶことやプロテスタンティズムが資本主義を生み出すことの要因を見出していくという授業で、私が学びたかったものと近い学問だなと感じ、この時に初めて社会学に興味を持ちました。その後、当時ちょうど発売された『東大社会学科卒』という本を読んだことでますます文学部社会学科に進みたいと思うようになりました。東大の社会学科を卒業されて活躍されている先輩が出ている本だったのですが、電通や博報堂に進まれている先輩のお仕事を読む中で、広告業界では人間の価値観という私の興味があることをビジネスにしていけると気づきました。そして、人間やその集団である社会を洞察するという私が興味のあることが学べて、かつ私が就職したい業界に就職される方が多いという2つの理由から文学部社会学科を選択しました。
──学生時代にやっていてよかったことはありますか?
3,4年生の頃、特に活動をしていなかった代わりに、1日に何本も映画を見たり、本を読んだりしていました。昔のフランス映画の歴史を辿ってみたり、アメリカ映画も古いものから新しいものまで観たり、ミニシアターに行ったりしていました。その経験は、広告会社に必要な感性や美意識を磨くのに役立ったのかなと思います。
──一方で、学生時代にやっておけば良かったなと思うことはありますか?
これだけは皆さんにお伝えしたいということは、運動はしておいた方が良いということです(笑)。広告業界はハードな働き方が必要だった業界でしたので、20代後半から疲れてしまって、体力の限界が来てしまったことで、転職を考えはじめました。体力があればより幅広い選択肢があったのかなとは思います。今は当時ほどブラックではないかもしれませんが、どの業界のどの仕事をするにしても体力は重要だと思うので大学時代の運動は本当に大事だと思いますね。
──広告業界の中でなぜ博報堂を選ばれたのですか?
博報堂には生活総合研究所というシンクタンクがあり、その組織が非常に魅力的だったからです。広告のターゲットとなる人々の生活全般のことを捉えるために、多角的かつユニークな視点で世の中の動向を研究・提言し、未来を誘発する、世界にも例のないシンクタンクということで、生活総研が発表するものは社会学的視点と未来を生み出すクリエイティビティやビジネスの視点が融合したような、とても面白いものでした。実際に、「消費者」の代わりに「生活者」という言葉を生み出したのも、生活総研だと言われていて、そのような人々の生活に視点を置いた考え自体が、私にとって魅力的でした。このようなシンクタンクがあることに象徴されるように、当時から博報堂は、生活者発想のマーケティングが強いとされていたこともあり、私がやりたいことをやれそうだと思いました。これらを総合的に判断して、博報堂に入社を決めました。
──実際に博報堂ではどのような業務をされていたのですか?
初めは生活総合研究所で働きたいと思っていたのですが、そこは10人ほどの小規模な組織で、就職してすぐに所属できる組織ではありませんでした。まずは現場の仕事をよく理解していた方が良いのではと思い、マーケティングプランナーとして、商品開発や根本的な企業戦略の考案等をしていました。トレンドを調査したり、デスクリサーチ等を読み込んだりしながら、現代の生活者が何を求めているのかを見出して、さらに調査をして需要を検討していくということをしていました。
──学生時代の就活の軸と、お仕事の内容がずっと一貫しているように感じたのですが、最初の就活の段階から広告業界での仕事が、ご自身の天職だと感じていましたか?
就活の前から『東大社会学科卒』という本を読んだり、社会学のゼミで消費社会論等を勉強したりしている時は、天職であると信じてやまなかったです。しかし、自分の中で広告業界で働く妄想をしていた分、実際に就職してギャップを感じるところはありました。
──博報堂で入社前後で感じたギャップはどのようなものでしたか?
これまで述べてきたように、私自身は人間や社会、歴史に興味を持っていて、マーケティングという仕事はもっと定性的に人間心理等を分析していくものだと思っていたので、思っていたよりも実際は数字・データ主義で、深い洞察ではないと感じてしまいました。もちろん、今になってみれば、自分が未熟だったからだとはわかるのですが、当時はちょっと自分の思いとずれてるなあと感じていました。
──これまでいくつかの企業に転職されていたと思うのですが、その転職の経緯や、最終的に企業からの独立を決めたきっかけについて教えていただけますか?
博報堂に勤めていた期間の後半から、日本のブランドを海外でブランディングするという仕事が増えていて、それが自分の一番やりがいがある仕事となっていました。そして私は海外で日本のブランドをブランディングをしたい、それが自分のライフワークだと思ったタイミングで、ひょんなきっかけからJWT(J. Walter Thompson:現在は合併してWunderman Thompson。外資系の広告会社)から声がかかりました。JWTは欧米だけでなくアジアで強いブランド・エージェンシーだったので、日本企業とは違うやり方があるのかなと興味を持ち、JWTへの転職を決めました。JWTはブランド戦略プランニングを世界で最初に構築し取り入れたエージェンシーです。実際、人間の普遍的な価値をとても大事にしていました。JWTでは、ブランドの本質のことをブランドの根っこと呼んでいました。。根っこは目に見えない木の下にあるものですが、その根っこがないと木も強く育っていかないからこそ、根っこを大切にしようという考えがありました。他社との合併をきっかけに、そのJWTのカルチャーが変わってしまいましたが、最終的には自分が大切にしてるものがなくなってしまったなら自分でやれば良いと思い、独立を決意しました。
──日本のブランドを海外でブランディングすることにやりがいを感じられていたということでしたが、元々仕事をするうえでの海外志向はありましたか?
あったのかもしれないです。マーケティングにおける海外との仕事は、外資系のブランドを日本でブランディングするか、日本のブランドを海外でブランディングするか、の2つのパターンがあります。元々日本の文化が大好きだったので、日本のブランドがうまく翻訳されて海外で成功してほしいなという思いが強く、日本のブランドを海外でブランディングすることに興味がありました。
──現在、ブランドストラテジストとしてどのようなお仕事をされているのですか?
ブランドの根っこを考えるというのが私がいちばん大事にしているところなので、人々の普遍的なインサイトを常に考えています。人々はみんなそれぞれ葛藤があって、それを解決してくれるようなブランドに惹かれると思っています。根源的にどのような不満や欲求が人々の中にあるのかというのを探し当て、そこから概念を作り出すということが業務の中心です。その中で、新しい概念をどのように世の中の人々に伝えていくのか、というコミュニケーションの戦略や、その概念をどのようにイノベーションしていくのか、という商品戦略をおこなっています。
──独立されている中で、どのようにしてお仕事を受け持っているのですか?
二つのケースがあります。一つはダイレクトにブランドさんからお話があるケースで、もう一つは広告代理店と一緒に仕事をするというケースです。こちらが一方的に提案するというやり方ではなくて、調査や分析を進めながら、企業と一緒にワークショップをして一丸となって議論して作っていくというやり方で進めています。
──お仕事をしていて楽しいと感じるのはどのような時ですか?
実際に調査をしながら、インサイトという新たな発見があるときは楽しいと感じます。また、チームでやっていくことなので、議論している中で様々な異なる意見が出るのですが、それらを弁証法のようにつなぎ合わせて議論を深めていくのはとても楽しいです。
──反対に苦しいなと感じるのはどのような時ですか?
ブランドはかなり抽象度が高いものなので、お互いが考えている言葉の意味が通じないことがあります。そのようなときに、なんとかつなぎ目を探したいと思いファシリテートするのですが、議論が平行線になっているなと感じる瞬間はとても辛いです。そのような場合は議論を一度やめたりもします。コロナ禍でオンラインでの議論が多くなったことも、このことに拍車をかけていますね。おそらく対面でポストイット等を使えば、段々と重なりを見出すこともできるのですが、オンラインでの議論はそこがやはり難しいなと感じます。
──独立をされてからは、お仕事が変わるごとに違ったコミュニティに関わることになると思うのですが、その点もやはり大変だと感じますか?
そうですね。関わる人々の普段の文脈を知らないので大変な部分もありますが、逆に知らない分違う視点を入れ、彼らの中であたりまえになって価値を見出せていなかった部分を引き立てられるという点で、企業に貢献できるのは良いことかなと思います。
昔だと内輪だけで以心伝心しながら議論をして、社外の人が関わるのは面倒だと考えていた企業が多かったと思うのですが、最近は社外の人が関わって一緒により良いものを作ることに積極的な会社が多いようです。私の周りでも独立して仕事をしている人が増えていて、外部の視点を企業の内部に注入することに対して企業側のニーズが増えてきていると感じます。
──普段は企業のブランディングをされていると思うのですが、ご自身のことはどのようにブランディングしているのですか?
私自身が考えるブランディングの大切なところは、見た目ではなくブランドの根っこや普遍的な意識なので、本質や人間がどういった価値観を持っているかということを重視してブランディングをしています。そういった意識があることを記事を通して発信しているので、それがある意味での自分自身のブランディングになっているのかもしれません。やはり表面的なブランディングではいけないというのは常々思っていて、セミナー等で話す機会があれば本質的なブランディングの大切さを話しています。また、記事やセミナー等で多様性の話をすることが多いので、ブランディングと、ジェンダーや多様性を掛け合わせたときに、私のことが第一想起される状況を作れたら良いなとは思っています。
──今後のキャリアプランを教えていただけますか?
ブランドストラテジストとして活動しつつ、今後は自分が信じているブランディングというものを次世代に伝えていきたいです。ちょうど今修士課程(MBA)を卒業しますので、次は、大学などで学生にブランディングを教えるということをやっていきたいです。次世代に伝えるという意味だけでなく、若い人たちと常に触れることは、ブランディングやマーケティングをやっていくうえでも役に立つと思いますし、大学生の方も、実際にブランディングの仕事をしている人の話を聞くことを面白いと思ってくれるのではないかと思っています。さらに企業と学生が共同でワークショップをやるなど相乗効果も起こせるのではないか、などといろいろ想像しています。
──エルオンラインの東大卒の専業主婦の方々を取り上げた記事を読ませていただきました。こちらは、どういった経緯で書かれたのですか?
元々私の同級生でさつき会の幹事をしている友人がいて、彼女は東大卒の専業主婦の方々は様々な可能性があるのに、それらを活かしきれていないことに問題意識を感じていました。そこで私は、彼女たちに光を当てた記事を書こうと思ったのがきっかけです。お一人お一人と話してみると、元々の意図とは変わってきまして、、、在校時から感じていた東大女子であることの葛藤や、その葛藤を乗り越えて前向きに新しい人生を生きていこうとする姿にいろいろと感じるものがありました。。そこで、東大女子という重く感じられるかもしれない肩書きを持ちながら、その肩書きに囚われずに自由に生きている人たちもいる、というメッセージが送れたら良いなと思って書きました。
──記事の中の、「東大生は正解にこだわってしまう」という内容が印象的でした。
正解を求めすぎることで自分を苦しめてしまうこともあると思うので、正解は一つではないということを考えられるだけで大きな違いだと思います。企業に就職されて苦しい思いをしている方もいらっしゃると思いますが、いつ会社を辞めても、何年会社を休んでも、また新しく始めれば問題ありません。東大を出てるのに、と周りから思われるかもしれないというような考えを振り払って生きることもできるということも感じてもらえたら嬉しいです。私自身もフリーになった時に書いた記事で、独立への不安はあったので、自分にエールを送るためにも書いたのかなと思いますね。
──大橋さんご自身は東大女子としての葛藤の経験はありましたか?
私はそこまではなかったです。学歴があまり関係ない会社に入ったのもあったと思います。何年か経ってから、同期の子に東大卒だったことを驚かれたこともあります(笑)。そういう意味では東大だからというプレッシャーを感じすぎずに生きてきていますね。
──大橋さんがお仕事をされてきた中で、東大女子というのが一つの強みになっていると感じられたご経験はありますか?
基本的には女性は大変だというのが私の中でのベースにあるので、あまり東大女子というのはポジティブには捉えられてないです(笑)。だからこそ、そのような大変な女性のことをサポートできるようなブランドを作りたい、という思いがあります。
──最後に東大生に向けたメッセージをお願いします。
東大生は正解というものを求めがちで、そのことが逆に苦しい思いを作り出してしまうときもあるのではないかと思います。本当に自分の好きなことや自分の生き方を考えて生きていってほしいです。東大出ているのに勿体無いなど周囲は言うかもしれないけれど、大事なのは自分の心に素直になること。本当に苦しい時は一旦辞めてもいいし、そこからやり直すことはいくらでもできるので、正解に囚われず自分の本当の気持ちと向き合って欲しいです。
──本日はありがとうございました!
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