インタビュー・レポ

【文Ⅲ→電情→博士】理転から院進、博士修了までの専攻を活かして起業する経験

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今回は、文科Ⅲ類から工学部電子情報工学科に進学した後、博士課程まで修了し、Mantra株式会社を創業された石渡祥之佑さんのインタビューをお届けします。

──入学時はどうして文科Ⅲ類を選ばれたのですか?

言語を教える先生になりたかったんですよ。中学生くらいの頃からずっと英語か国語か中国語を高校で教えたいなと思っていました。ですので、文学部か教育学部に進学して教職をとって先生になろうという思いから、文Ⅲを選びました。

──なるほど、そのモチベーションで入学して、最終的には工学部電子情報工学科(通称:電情)に進学した理由は何ですか?

そうですね。入学当初は無知だったので、どうすれば英語とかの先生になれるのかはちゃんとわかってなかったんですね。大学に入ったタイミングでは、英語の教師になるには、文学部には行かなくてはいけないと思っていました。

でも、その進学選択の前の2年生の初めの頃に、文学部と教育学部のどちらにしようと迷って、出身高校に戻って先生に相談したんですよ。

東大文学部出身の先生に「もうすぐ進学選択なんですけど文学部と教育学部のどっちがいいんですかね」って聞いたら、「どっちでもいいんだ。教員免許を取るには教職課程の授業を取りさえすればいいんだよ。どの学部にいっても、英語の先生にも国語の先生にもなれるから、面白いと思う方に進学すればいいよ」と言われて、そこで学部はどこでもいいことを知り、当時、僕が一番面白いとおもっていたのは情報系の話だったんで、情報系の学部を探し始めました。

──情報系はいつ頃から興味があったのですか?

それは入学前からですね。別にプログラミングとかをやっていたわけではなかったんですけど、パソコンは結構好きだったので趣味でウェブサイトを作ったり動画を作ったりしていました。だからもっとコンピュータの仕組みをもっと知りたいな、とは思っていました。

そんな感じの興味を持っていたので、どの学部に行っても先生になれるなら、まずは情報系に行って、予定通り英語か国語の先生になればいいやと考え始めました。

──情報系の学問が好きだったということですが、電情以外に考えた学部ってありますか?

情報系の中では工学部システム創成学科(通称:シス創)か進学先の電情で悩んでましたね。理学部情報科学科(通称:理情)も面白そうだと思っていましたが、当時、理情は要求科目みたいのがあって、進学前に留年しないとそれらを取りきることはできなかった気がするので、選択肢からは外れました。

──シス創を選ばずに電情を選んだ理由は何ですか?

電情が一番興味のあった研究室が多かったんですよね。自分はコンピュータや通信の仕組みそのものに興味があると思ってたので、どうやったら速いコンピュータを作れるんだろうとか、どうやってインンターネットが動いているのかとか、色々と興味がある領域が多かったんです。ハードからソフトまで、どんな研究でもできそうだったので、電情にしました。

──実際に文Ⅲから理転という形で電情に入って、どうでしたか?

今でも印象に残っていて、授業をちゃんと聞いてるにもかかわらず基礎がないから何もわからないという状況に陥りました。文系なので数3を高校でやっておらず、基礎がガタガタでした。また、高校物理も理系向けの範囲は勉強していなかったのでわかりませんでした。さらに、教養学部の時に理系向けの授業を取っていたわけではなかったので、大学の理系の学問もわかっていませんでした。

でも、学科の授業ではそういった分野の知識はある前提でカリキュラムが組まれていました。線形代数とかを触れたことない状態で学科の勉強がスタートしたので、かなり大変でしたね。東大の受験勉強よりも大変だった気がします。

ただし学科のサポートはかなりしっかりしていたし、運よく勉強を教えてくれる親切な友達も多くできたので、最終的にはなんとかなりました。

──電情に進学して良かったなと思ったことは何ですか?

ものづくりが好きな人がとても多く、非常に楽しかったことですかね。ものづくりが好きな友達は、学科に進学する前はそこまで多くなかったんですが、電情はそうした人がかなり多く、みんな何かしら物作りに興味があってギターのエフェクター作ってたとか、プログラミングしてるとか、ロボット作ってるとか、そういう人たちに囲まれてすごい幸せで、電情を選んで良かったなと、進学してすぐに思いましたね。

【文Ⅲ→電情】電情に理転するという経験と過酷でも楽しい学科生活~石渡さんインタビューvol.1~
電情の学部生時代に友人と作った「自作ぷよぷよ」

──進学前と進学後のギャップはありましたか?

思ったより人間関係が希薄じゃなかったのは、意外なギャップでしたね。今はどうかわからないですが、当時は学科で五月祭の企画を出してました。そういう「同クラ」的な仲の良さって後期課程にはないのかなって思ってたんですけど、電気系にはそれがあってとても楽しかったですね。

──学部時代にやっておけばよかったことはありますか?

留学はもっと早い段階でいけばよかったなと思いますね。東大には、交換留学プログラムがたくさんあるじゃないですか。それを学部の頃から1年休学してでも行くと良かったかなと思います。当時は全く興味がなく、博士課程の時から海外に行くようになったんですけど、学部の頃から行っていればチャンスがもっと早く広がったのかなとは思います。

──電情の学生の就職と院進の割合はどれくらいでしたか?

正確な数字は分かりませんが、当時、体感として95%くらいは院進してましたね。

──石渡さんはどのような選択をしたのですか?

先ほど申し上げたように、もともとは教員免許とって先生になろうと思っていたのですが、学科で勉強するなかで、エンジニアになった方が楽しそうだと思うようになりました。エンジニアになることを決めてからは学部就職はほとんど考えませんでした。大学院で研究したら楽しそうだから、早く大学院にいきたいなと思ってました。

──石渡さんは何について研究されてたんですか?

僕は自然言語処理についての研究をしていました。コンピューターで処理するものって色々ありますよね。最近だと「AI」という言葉が流行ってますけど、カメラに写った画像を理解して車の運転を支援するAIとか、書かれたテキストを読んで対話できるAIとか、いろんな種類のものがあります。そのなかで、僕がやっていたのはテキストですね。テキストを計算機に理解させる技術の研究を学部4年から始めて、今もやっています。

──石渡さんは、結果的に博士課程も修了されていますが、もともとそ その予定でしたか?それとも修士課程修了後に就職する予定でしたか?

最初は、修士が終わったら就職しようと思っていました。でも、勉強していくなかで、こんなに面白いものをここでは終えられないと思うようになりました。さらに、エンジニアになるなら別に博士になってからでも決して遅くないし、むしろ有利なんじゃないとも思うようになりました。研究の能力を身につけてエンジニアなるのもいいじゃんと考えて、博士にいくことにしました。

──なるほど。修士課程や博士課程のイメージがわかない学生も多いと思うのですが、どのようなカリキュラムでしたか?

ざっくり修士2年、博士3年という感じです。博士はもっと長い人が結構いますね。修士も博士も研究室でやることは一緒です。だから5年いるからって特別なことはありません。自分と先生、場合によっては先輩とか同期とか後輩とかとも一緒になって、研究をして論文を書いて発表する。これをずっとやります。

とはいえ、修士はまだ授業がちょっとあるので、まだ学部生と博士の間みたいな感じですかね。とはいえ、学部のときとは全然違います。授業がメインで何十人と一緒に授業を受けるというの学部の時のような授業は週に数回しかなく、ほとんどは自分の研究室で研究をするという感じでしたね。

──修士と博士の違いは何かありませんか?

大きな違いはありません。しかし、博士の方が結果に対して求められるハードルが高い、というのが修士と博士の違いですね。僕のいた学科では、博士になると授業とかが減っていくので、時間もかなり自由ですね。

情報系の研究は、研究室にいなくてもできるんですよ。パソコンを研究室のでかいサーバーにさえ繋げられれば計算はできるので、場所はあまり関係ありません。ですので、多くの同期が博士に入ってからは海外でインターンしたり海外の大学にしばらく行ったりして、現地の会社の人や海外の大学の先生と一緒に研究をやってました。

僕もそれをやっていて、博士1年目の頃は夏休みから半年間、北京のマイクロソフトリサーチアジアというマイクロソフトの研究所で研究しました。博士1年目の半年は日本で、残りの半年は中国で過ごしたという感じでした。

【修士・博士】情報系大学院の現実と博士課程での海外経験~石渡さんインタビューvol.2~
大学院在学中に参加したテキサスの展示会「SXSW」

──いわゆる留学というイメージとは少し違うイメージがありますね。

そうですね。どちらかというと、海外インターンですね。

博士2年目はアメリカのカーネギーメロン大学という言語処理の分野が強い大学に行って、そこの先生と一緒に研究を半年間しました。だから、博士二年も半分は日本にいて半分はアメリカにいた感じです。こちらの方が留学のイメージに近い感じですかね。とはいえ、行く先が企業か大学かの違いはあれど、どっちも研究をしに行っていて、ゴールは論文を書くことであるという点は変わりません。

──石渡さんはMantra株式会社を創業されて、現在CEOを務めていらっしゃいますが、どういった事業をされているのですか?

「世界の言葉で、マンガを届ける」ためのソフトウェアを作っています。一つはマンガの海外展開をサポートする機械翻訳技術、もう一つはマンガで外国語を学べる学習アプリです。

──どういった経緯で創業することになったのですか?

博士の時に、趣味のプロジェクトとしてやり始めたのがきっかけです。博士3年のときに、本業とは別に「自由研究」をしようじゃないかと学科同期(のちの共同創業者)と話して、はじめました。

──自分の研究をしつつ、プロジェクトとしてやられてたということですか?

そうですね。スタートアップには興味があったんですけど、一緒に始めた仲間が就職することを考えていたので、最初は半ば趣味という形で始まりました。

最初に、東大の産学協創推進本部が開催している「製品アイデアコンテストUtokyo 1000k」に参加をしたら、アイデアが評価され優勝できました。それをきっかけに「東京大学 Summer Founders Program」に入り、スタートアップについて学びはじめました。そのあといくつかの展示会で漫画の機械翻訳機を展示したことで、このサービスを欲しがってくれる人がいるのを知り、会社を作ることにしました。

【起業】博士修了までの専攻を活かして起業をするという経験~石渡さんインタビューvol.3~

──漫画の自動翻訳をされているとのことですが、会社のゴールは何ですか。

ひとつは、すべてのマンガが言語の壁を超え、リアルタイムに世界中のファンに楽しんでもらえるようにすることです。

Mantraには2つのサービスがありますが、その1つがマンガ翻訳のSaaSである「Mantra Engine」です。現状、日本で漫画が出版されてから海外の人が読めるようになるまでには長い時間がかかっています。結果としてファンが非公式に翻訳した海賊版が読まれており、出版社や作家さんの収益も減ってしまいます。これを解決するためには、日本語と同時に世界各地の言語で出版できるように翻訳版を早く制作できるようにならないといけません。週刊連載の場合、翻訳に使える時間が2日程度しかないなかで、翻訳の速さとクオリティを両立する必要があります。「Mantra Engine」は、これを実現するためのサービスです。

──もう1つはサービスは何ですか?

「Langaku」です。これは漫画で外国語が学べる、学習用アプリです。

外国語を習得する過程においては多読(たくさん読むこと)がとても有効なのですが、「どういった本を買えばいいのかわからない」という人が多くいます。外国語の本は価格が高い上、買う前にはその本が面白いかどうかよくわかりません。しかし、漫画ならある程度値段もリーズナブルですし、面白い作品も選びやすい。さらに、多少表現が難しくても、ある程度絵から意味を類推できるので、「とにかく大量に読む」のが重要な多読学習と相性が良いと考えました。

一方で、マンガはくだけた表現も多く、英語学習者が知らない単語も頻繁に出現することがわかっています。「Langaku」には、英語で書かれたフキダシをタップするとそこだけ日本語になる機能や、英文の難易度を自動で推定する機能など、機械学習を活用して学習を効率化するための仕組みがふんだんに含まれています。僕たちはこれらの技術を活用することで、マンガの面白さと高い学習効率を両立することにチャレンジしています。

──石渡さんのもともとやりたかった「教育」と専攻である「情報工学」が組み合わせられた非常に素晴らしいサービスですね。今後のビジョンについてお聞かせください。

お話したとおり、もともと外国語や教育に興味がありました。それは、言語の壁を超えてエンタメコンテンツが他の国や地域に届いたときに、若者が異文化に興味を持ったり、文化を超えて仲良くなったりできると感じていたからです。エンタメがほんの少しずつ、でも確実に世界を平和にしていることを感じる中で、その流れを加速させることに僕は強いモチベーションを感じています。ですので、言語の壁を超えるための技術やサービスをこれからもつくっていこうと思っています。僕たちのサービスによって、誰かがちょっと外国語が得意になるとか、マンガを通して異文化をちょっと好きになるとか。そういう、一見地味な成果をちゃんと積み上げていきたいです。

【文Ⅲ→電情】電情に理転するという経験と過酷でも楽しい学科生活~石渡さんインタビューvol.1~
Mantraのオフィス

──最後に学生へのメッセージをお願いします。

どういう会社で働くかとか、大学院に行くべきかとか、漠然とこのままでいいんだろうかとか、いろんなことを考える時期かと思います。僕が学生時代意識していたのは、、「いつ自分のテンションが上がるか」「どんな場面でグッとやる気が出るか」を観察し続けるということです。

本当に「これが好き」といえることを見つけることが、進路を決める上でとても大事だと思います。「特に好きなものないな」と思うこともあると思いますが、それは単に自分のテンションが上がる瞬間を見逃しているだけかもしれません。授業やサークル活動や日常生活の中で、テンションが上がる瞬間というものは多かれ少なかれあって、それを見逃さないようにすることで、進路を選ぶときの手がかりとして生かすことができると思います。

自分でもかなり注意深く観察しないと見落としてしまうと思いますが、「こういうことをやっている時の自分が好き」とか「こういうタイプの人と一緒にいるときに楽しい」とか、そういうシンプルな感情を進路選択では大事にした方がいいんじゃないかなー、と思います。

なお現在、Mantraでは東大生のインターン(ビジネス職)を若干名募集しています。最先端のAI技術の事業化や、英語を仕事で使うことに興味がある人、「マンガを海外に届ける」という言葉にピンとくる人は、ぜひ応募してみてください。

──非常に貴重な機会ですね! 本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました!

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