長期インターン
【人生は自分で決める】米国留学→商社→英国留学を決めた理由
インタビュー・レポ
今回は、黒川浩太郎さんのインタビューvol.1をお届けします。
黒川さんは文科Ⅰ類から法学部に進学されました。卒業後は農林水産省で2年間働かれたのち、愛媛県の今治市に移住してサッカークラブFC今治の経営企画室とパートナーシップグループの業務に従事されています。
── まず前期課程の1年半はどのように過ごされていたか教えてください。
愛知学生会館という県人寮に住んでいたのですが、そこは自治会がある関係で先輩後輩の結びつきが非常に強いところで、私は寮で暮らす時間がけっこう長かったですね。愛知学生会館は東大生に限らず様々な大学・学部に属する多様な人たちが集まっている環境だったので、各々の専門分野に関して語り合ったりしながら非常に多くのことを学び、多くの刺激を受けました。みんな愛知県出身だという安心感もあって、非常に仲が良かったです。
また寮の方の紹介で本郷の日本料理屋でアルバイトをしていました。ここにも結構多くの時間を割いていましたね。
── 愛知学生会館のなかで熟成されていった人の結びつきが非常に貴重だったんですね。勉強に関してはいかがでしたか?
勉強に関してはそんなに嫌いではなかったので日常的に講義の復習などをしていた一方で、本当に勉強が好きで研究熱心な人には勝てないなと思っていました。教養学部の良さを生かしながら浅く広く勉強していた記憶があります。
また、大学の外では、静岡県三保の松原の地域活性化プランコンテストに参加しました。グループワークを進めるなかで、最初の創発に関わる部分よりも、その説明の筋書きを考える方が得意なタイプなのではないかと気づきました。
── 文Ⅰから法学部へ進学された際のお考えや経緯について教えてください。
自分は入学した当初から国家公務員になりたいと思っていました。国家公務員になるのであれば、文科Ⅰ類から法学部に進学することが一番の近道だと考え、法学部に進学しました。
── 国家公務員としてのキャリアはいつ頃から描いていたのですか?
高校時代にキャリア教育の授業で、たまたま国家公務員の方が講演をしてくださる回がありました。そこで国家公務員という仕事の存在を知り、魅力的だと感じました。その頃は、世帯の所得や都市間の違いによりチャレンジする前から格差があってはいけないなど、機会の平等に関して問題意識を持っていて、財務省、厚生労働省、総務省あたりがよいかなあと思っていました。
国家公務員を志望する理由としては自分があまり売上や利益など目に見える数字を追いかける仕事は頑張れなさそうだなという感覚もありました。
── 実際に進学選択を前にして、他の学部学科を検討されたことはありましたか?
特に他学部を真剣に検討することはなく、法学部を選びました。哲学・倫理にも関心がありましたが、他学部聴講でよいかなあと。
【進学選択に悩んでいる東大生からの質問コーナー】
── 法学部はしばしば「砂漠だ」ということを耳にするのですが、実際の授業の雰囲気はどうでしたか?他の学生との繋がりはありましたか?
基本的には先生が大講堂の前で講義をして、学生はそれをノートに取るという形式の授業が多かったので学部内の横のつながりは薄い方だったと思います。前期教養の時のクラスメイトと近くの席で講義を受けて、流れで食事に行ったりするくらいですかね。
ゼミは、他大学と異なって1学期で解散してしまうこともあり、関心分野を真面目に研究して議論するための場所、という位置づけだという印象です。
── もう1点お伺いさせてください。黒川さんは国家公務員を念頭に置いて進学されたと思うのですが、法学部での学びが見方・考え方など、今につながっていると感じることはありますか?
これはどの学問においても言える話だと思うのですが、論理的に文章を書いたりアウトプットをしたりする力というのは大学の学びのなかで自然とついていくのではないかと思います。法学部の場合、試験前に対策書を読むだけでも論理的かつ複雑な文章を読み解いていくことになるので、けっこうな訓練にはなるのかなと。そうすると、社会に出てから、物事をきっちり論理的に筋道立てて説明し、周りの理解を得ていくための素地ができるのではないかなと思います。
── ありがとうございました。
── こうして法学部に進学されたわけですが、実際に後期課程が始まってから、法学という学問に対するギャップなどはありませんでしたか?
あんまりなかったというのが正直なところです。文Ⅰの授業で法律の概観などは既に勉強していったので、少しずつ慣れていったという感じでした。
── 何か印象に残っている授業はありますか?
愛知学生会館のOBである准教授が開講する刑事訴訟のゼミに誘われ、参加してみました。研究者志望の院生も所属するゼミで、刑事訴訟法の日英比較を行いました。自分は学部生であり、かつ、日本の刑事訴訟法すら履修していない状況で臨み、ついていくだけでとても大変でした。しかし、法学を究めようとする人たちと関わることができ、面白く刺激になりました。
── 国家公務員の勉強はいつ頃から開始されたんですか?
当初は法律区分で受けることを念頭に、3年終わりの春休みあたりから本格的に勉強しようと思っていたのですが、3年の夏に勉強を始め、秋に受験した教養区分で合格することができたので、そこから4年の夏の官庁訪問までは時間ができました。
── 1年弱お時間があったということですが、民間の就活を検討されたことはなかったんでしょうか?
企業説明会は数多く聞きに行きましたが、国家公務員が第一志望ということは揺らがなかったので実際に受けた会社はそう多くなかったです。
ただメガバンクのインターンには1週間ほど参加した縁で、面接まで受けたことはありました。グループワークのファシリテートをしてくれた行員がリクルーターとして色々と相談に乗ってくれて、ありがたかったです。
少ないながらも幾つかの企業の面接を受け、いくつかの企業では選考に落ちたのですが、その中で「あなたは優秀だと思うけれども考え方が弊社に合わない」と言われたことがあり、自分に合った価値観や文化を持つ組織を選ぶことが大事なんだなあと感じたことを覚えています。
── 4年の夏の官庁訪問を経て農林水産省に入省されたと伺っておりますが、どうして農林水産省を選択されたのでしょうか?
農林水産省のビジョンステートメントに「生命を支える「食」と安心して暮らせる「環境」を 未来の子どもたちに継承していくことを使命として」という言葉があるのですが、これに強く共感しました。まさにこれから考えていきたいと思っていたテーマでした。
ちょうど志望官庁を選ぶタイミングに近い大学4年生の夏学期に「生と場所の環境倫理」という授業を聴講し、これまで漠然と抱いていた社会への違和感が言語化されていくのを感じました。持続可能な生産と消費のテーマに携わっていきたいと思い、農林水産省に決めました。
── 進路選択に当たっては、ビジョンを軸にして決断されたんですね。
自分の場合、具体的にこれがやりたいというアイデアが自分のなかから出てくるタイプではなくて、その組織が具体的にやっていることよりも掲げるビジョンで考えました。
── 特に何がやりたいか決まってない人にとって、この考え方は非常に大切ですね。
── ビジョンに惚れて入った農水省の日々はいかがでしたか?
1年目は消費・安全局の総務課に配属されました。総務課は、簡単に言うと、農林水産省の中枢から局単位に割り振られた仕事を局内各課に割り振る立場です。
入省した前後に「もりかけ問題」が国会で争点化しました。農水省は、獣医療体制を所管するので、流れ弾で質問がたくさん当たりました。慌ただしい国会関係業務を体験することができ、報告・連絡・相談の集中訓練のような形で、とても良い社会勉強になりました。
それと同時に役所の長時間労働を体験し、この働き方は私にとって持続可能ではないと感じるようになりました。
それに加え、省内の重要テーマは、しばらく輸出競争力強化や、大規模で効率的な農業といったことであり続け、自分の携わりたいテーマに腰を据えて取り組むことは難しいことが分かってきました。自分の意志、配属、時流が奇跡的に合致した時には、政策ツールを駆使して大きく社会を動かせる非常に魅力的な仕事だとは思うんですけどね。
そうして、留学には興味があるものの、ずっと役所にはいないのだろうなと思っていた2年目の冬、FacebookでFC今治に関する求人を目にしました。この求人面白そうだな、転職してみようかなと、そう考え始めました。
── 愛知出身ということでしたが、セカンドキャリアとして選ばれたのは愛媛県に根付いた企業だったんですね。
サッカー×持続可能な社会創りという掛け合わせが唯一無二でした。好きなサッカーに関わる仕事で、かつ、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」という企業理念を本気で追いかけていると感じました。今日の株価や売上など目に見えるものばかりを追うのではなくっているけれど、知恵や信頼などの目に見えない資本を大切にする社会を目指そうと言っています。ここでなら、自分のやりたいことがやれると思い、農林水産省を離れ、移住・転職すること決断しました。
── FC今治ではどのようなお仕事をされているのですか?
経営企画室では、取締役会や執行役員会といった重要会議の議事録作成などの業務を行っています。パートナーシップグループでは、既存のパートナーにはパートナーとしての権利活用を提案してパートナーシップの価値を高める仕事、新しく訪問する企業には会社の理念をご説明し、相手企業の思いや課題を理解し、共により良い社会を創るパートナーになっていただけないかとご提案する仕事をしています。他にも、ホーム戦は部署にかかわらず社員全員で設営、運営、撤収を行いますし、2023年竣工予定の新スタジアムの計画の仕事もあります。
── 今後FC今治はどのようなチームを目指していますか?
日本サッカーの型を作ること、16歳までにその型を身につけさせ、その後自由にさせることで自律した選手を育てること、その選手たちが日本代表の骨格を担いワールドカップで優勝することを目指しています。それとともに、今治市をはじめとする東予地域(他に西条市、新居浜市、四国中央市、上島町)の人々に愛され、街の活気や希望を生む存在を目指しています。
── 黒川さんは今後どのように関わっていきたいと思っていますか?
まずは、パートナーシップに関して、我々の想いや活動に共感し、協働していただけるパートナーを増やしていきたいです。
そして、新スタジアムの法面をワイン用のぶどう畑にする計画に着手したので、採れたぶどうでワインができるように頑張りたいです。
── 最後に、東大生に向けてひとことお願いします。
少しでも心が惹かれたら、機会を作って関わってみることが、自分の興味関心を探ることにつながると思います。そのテーマに対する関わり方を、実際に現場を見て、体を動かして感じることを通じ、考えていったら良いのではないかと思います。
私も今の会社で3年目になりますが、まだまだたくさん経験を積んでいきたいので、食わず嫌いをせずにやっていきたいと思っています。
── 大変貴重なお話をありがとうございました。
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