長期インターン
【文Ⅲ→農学部】東大卒の女性農家としてのキャリア
インタビュー・レポ
今回は、小芦昇子(こあし・しょうこ)さんのインタビュをお届けします。小芦さんは文科Ⅲ類から教育学部比較教育社会学コースに進学し、現在は教育や福祉サービスを展開する企業でキャリアコンサルタントやマーケティングなどの仕事をされています。
──まず、小芦さんの学生時代について伺っていきたいと思います。 なぜ教育学部の比較教育社会学コース(比教社)を選んだのですか?
もともとは親が英語の教員だったこともあり、国際系の活動に興味を持っていて、大学1年からMISという国際協力のサークルに入っていました。そのサークルで、大学1年の夏にカンボジアの教育プロジェクトに携わったんですよ。そこで小学校にすら行けてない家庭を訪問し、教育を受けさせたくても金銭的な理由等で学校に行かせられない、という話を聞いたときに、「なんて自分は恵まれているんだろう……」ということに気づいたんです。
大学に入学した当初は教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コース(国関)進学しようと思っていたのですが、その経験や、教育系NPO法人の活動に参加したこと通して、自分の興味関心が「国際協力」よりも「教育」の分野、なかでも教育格差にあることが見えてきました。
格差が生まれる社会構造について深く学びたかったため、教養学部教養学科総合社会科学分科相関社会科学コースや文学部社会学科との間で悩みましたが、教育格差という興味関心に一番真っ直ぐ向き合えると思ったため、比教社への進学を選択しました。
──東大に入学してから様々な活動をする中で、自分が本当に興味のある分野が見えてきた、ということなのですね。私もそうでしたが、入ってから自分の興味分野を見つけられるのは東大ならではですよね。
そうですね。教育を受けたくても受けることのできない人たちを目の当たりにした時に感じたもどかしさが、進学選択の原体験となっていると思います。
──比教社は何を学ぶ学科なのでしょうか?
教育学部の5コースの中でも、比教社は教育社会学を学ぶ学部で、社会現象や文化と教育の関係を研究します。実際には、「教育格差」「国際比較」「社会教育」「文化」「ジェンダー」など、幅広いテーマの講義や演習があることが特徴です。
──比教社で良かったなと思うことは何ですか?
比教社は3年生の必修科目に、「調査実習」というものがあるんですよね。自分たちでアンケートを作って、実際に中学生に答えてもらって、それを分析する、という調査の一連の流れを全部やるという授業です。この授業で得られたものは本当に社会に出てから役に立っています。
アンケート項目をどのように設計するかであるとか、得られた結果をどのように分析するか、という調査実習で使う思考能力は、今の会社でもどのように調査項目をデザインし分析すれば、得たい情報が手に入るのかを考えるうえで非常に重要です。きっと多くの会社で、アンケートをとったり、データを分析したりする場面は出てくると思うので、社会に出てからも汎用性の高いスキルだと思います。
さらに、データを扱う場面が多いために、仮説を持ってから物事に取り組む、「仮説思考」のようなものが鍛えられたのですが、この能力はビジネスの世界で新しい取り組みを始める際にも使うものだったので、社会に出てから、比教社でいい経験ができたなと感じることが多いですね。
──3年の夏から1年間シンガポール国立大学に留学さかれたとのことですが、小芦さんのように留学を考えている東大生は多いと思います。なぜシンガポールに留学し、そこでどのような経験をしたのですか?
一つの理由としては、大学1年からやっていた国際系サークルの活動を通して、シンガポールに何人か友達がいたので(笑)。それと、留学先では社会学を学びたいと思っていて、シンガポールという国は多民族国家で、その中で格差や対立もあるのではないかという仮説を検証したかったというのも選んだ理由です。だから留学先の大学ではシンガポールの社会について広く学びました。
あとは、現地でも色々課外活動をやっていて。学習支援のボランティアや飲食点で余った食品を現地の移民労働者の方に配る活動をやったり、吹奏楽のサークルにも入ったりしていましたね(笑)。
──すごいですね(笑)。留学先でもアクティブに活動されていたのですね。
そうですね。私は留学先ですごい学問を極めたかったというよりは、現地の社会の実情を知りたいという思いが強かったので。いろいろな活動を自分で探して、カタコトの英語でコミュニケーションをとりながら参加していきました。現地の方も、「日本からの留学生」っていうのを面白がって受け入れてくれて(笑)。
シンガポールが多民族国家ということもあってか、浮く感じもなく活動できたので、非常に良い経験となりました。留学先でも、やろうと思えば色々な可能性が広がっていると思います!
──ここからは小芦さんの就活や、キャリアのお話を伺っていきます。就職活動を本格的に始めたのはいつ頃からでしょうか?
留学から帰ってきた5,6月くらいから始めましたね。人と比べると割と早く始めていた感じはありました。サマーインターンとか行きまくっていたので(笑)。留学から帰ってきたタイミングって、授業もなかったのですごい暇で。先に就活を終えていた周りの友達に話を聞いて色々な企業にES(エントリーシート)を出しましたね。
──就活を始めた段階で、どんな仕事がしたいか決まっていたのですか?
全然見えていませんでしたね。まず世の中にどんな仕事があるのか、イマイチ想像ができなくて(笑) 。私が運が良かったのは、留学をしていたお陰で同級生が先に就活を終えてくれていたことでした。ひたすら話を聞いて、友達が受けていた企業で興味がありそうなところをひたすらエントリーする、みたいな。
比較教育社会学コースの人は割とコンサルとかシンクタンクへ就職する人もいたので、そういった企業も受けましたし、もちろん教育にも興味があったので、教育系の企業は手当たり次第受けていきましたね。そんな感じで、自分の興味関心に少しでも引っかかるものは、積極的に受けていきました。
──比較教育社会学コースはコンサルタントやシンクタンクへの就職が多いのですね。
はい。他の教育のコースに比べても多いと思います。3年生から始まる「調査実習」で調査・分析をしますし、教育学部の中でも「分析から得られた結果・事実から何が言えるか」という点をすごく大事にする学問だと思うので。そういった思考の仕方が割と近いんだと思います。
でも、卒業生の就職先はかなり多様ですよ。コンサルやシンクタンクだけでなく、保険会社・銀行・メーカーなど、幅は広いですね。
──それでは、就活を進めていく中で、どうして今働かれている会社(株式会社LITALICO)を選ばれたのですか?
サマーインターンを手当たり次第に進めていく中で、だんだんと自分のキャリア観のようなものが見えてきたんですよね。
まずは、コンサルティングをするより、事業会社で最後の成果にまでコミットできる働き方の方が好きだと思いました。これは就活を通してもそうですし、学生時代に実際に事業に携わる教育系NPOとコンサルティング団体の活動を並行してやってきた中で見えてきたことでしたね。どうせやるなら、自分が最後まで手を加えて、最後の成果にまで責任を持ちたいと思っていることがわかって。ここで大きな分類が絞れました。
あとは、様々な業界を見ていく中で、教育系や人材系などの「人と直接関わる仕事」に興味があるということ、いわゆる大企業よりも成長環境のあるベンチャーっぽい雰囲気の方が合うということなどに気づきました。そこで、10年20年かけて成長していくよりも、若いうちから色々な経験をさせてくれそうな会社に絞り込みました。
最終的には、人材系のメガベンチャーと医療介護系のベンチャー企業と今働いているLITALICOとの3社で悩みました。最後の決断は直感で、会社のビジョン・雰囲気や社員の方が持っている価値観に、自分が一番共感できたのが今の会社だったので、就職を決めました。
──実際に自分でインターンに参加したり、過去の経験と照らし合わせたりしながら、キャリアの軸を形成していったのですね。
小芦さんは現在LITALICOでどのような仕事をされているのですか?
まずLITALICOという会社自体は障害者の方や障害児の支援をしている会社です。
主要な事業としては、直接支援をする教室や事業所の運営で成り立っているのですが、私はそこでは働いていなくて。私は福祉業界で働きたいと思っている方々の転職支援をする「LITALICOキャリア」っていうサービスがあって、その中で人材系の仕事をしていますね。
始まって2年くらいの、まだ小さな事業なんですけど、私が入社するタイミングが、ちょうどその事業の立ち上げと被っていたこともあり、そこにアサインされました。
2年間その中で働いていてきて、職種は結構変わっているんですよね。一番長かったのはキャリアアドバイザーですね。毎日お仕事探している方と電話して、希望条件などの相談に乗りながら入社までサポートする、といった内容の仕事を昨年(2020年)の12月まで続けていました。
今年(2021年)1月からは職種が変わって、仕事を探している人たちがうちのサイトに訪れてくれるような、集客とかマーケティングの業務を任せてもらえるようになりました。
──なるほど。会社の中での仕事内容は結構変わっていくのですね。それもベンチャー気質のある企業ならではといった気がします。
そうなんですよ。うちの会社が、営業やマーケの専門家を育てるというよりは、「事業開発ができる人間」を育てるっていう指向性が強いので。一つの職種に専念ではなく、色々な職種をアサインしてくれるんですよね。
そのような働き方は私にとって魅力的で。事業の全体像がだんだんと見えてくる感じがして働いていて面白いんですよね。比較的早いうちから全体感を掴めるのは、大企業では経験しづらい部分なのかなと思ってます
──私も自分がやりたいことが明確に見えずに悩んでいるんですよね。
最初は皆さんそうだと思います(笑)。
「軸」とか「適職」とかって正直あんまり考えこんでもわからないものだったなと思っていて。だから私みたいに、色々な会社を見ながら、ボトムアップ的に考えるっていうやり方もあるんだと思います。具体的な事例をたくさん見て、自分の興味や好き嫌いを判断していくんです。それを繰り返していく中で、自分の軸がだんだんとハッキリしてくる、という感じでした。
私が紙に向き合って一人で自己分析とかをするよりも、とにかく行動するのが性に合ったタイプだったのもありますが(笑)。学生の間しかいろんな会社を見ることはできないし、社会人になんの見返りもなく話聞けるのってほんとに学生の特権なので。その特権はぜひ使った方がいいと思います。
──次に、今後の小芦さんのキャリア設計について教えてください。
まず、今の会社内でどうなっていきたいかということでは、会社のビジョンにもあるように、「事業開発ができる人間」を目指しています。何かしらのサービスを作ったりだとか、今あるサービスを大きくしたりだとか。このまま仕事を頑張って、30歳くらいまでにはマネージャーや事業責任者のようなポジションに行きたいと思いますね。そんなに時間もないんですけど(笑)、その年齢を一つのベンチマークとして頑張っています。
もう少し長期的ところまで考えるとしたら、すごい具体的に起業したいとかはないんですけど、ビジョンに共感できる比較的小さな会社に入って、その人たちの想いを形にするような、そういう働き方ができたらいいな、と思っています。
私はあまりビジョンを掲げてみんなを引っ張っていくタイプではないのですが、誰かが構想していることを形にすることが向いていると思っているので、そういう働き方を通して社会に貢献していけたらいいなと思っています。
興味のある分野としては、今後も教育・人材・福祉などの領域に興味があるのだと思います。かつ関わり方としては、直接人を支援するっていうよりかは、直接支援する人のことを後ろからサポートする方が好きだと思って。だから直接誰かを支援している人が、より働きやすくなるような仕組みや組織を作る仕事に、今後も関わっていくんだろうと思っています。
──小芦さんの学生時代の就活・今のお仕事・そして今後のキャリア観について、詳しく知ることができました。学生時代にはたくさん行動することで自分の軸を見つけてきたこと、そして、その軸を起点にしながら今後キャリアを考えてらっしゃることが印象的でした。キャリア観やライフプランを考える上で「女性」として意識していることはありますか?
これもすごく大切な視点ですよね。女性がライフプランを考える上で、どうしてもブランクが生じることはあるじゃないですか。例えば子供が欲しいと思った時に、どんなにパートナーが協力的だったとしても、「産休」は女性しか取れないので。
だから私は、いざ自分が産休を取るっていう選択をするとして、やはりその前にしっかり自分が世の中で生きていける術を身につけておきたかったんです。それもあって、さっき言ったように、30歳という年齢を一つのベンチマークにしていたりということもありますね。
──なるほど。やはりキャリア観を考えていく際にも、様々なライフイベントとの兼ね合いなどの中から考えていく必要があるのですね。
そうですね。もちろん、子育てと仕事の関係は、男性でも考えることでしょうし、そこはフラットであるべきだと、比教社の出身としても思うのですが(笑)。
でもその一方で、自分のパートナーの職場がどれくらい協力的かということも関わってくるじゃないですか。パートナー個人の問題ではなく、その人の後ろにある社会が影響してくるって考えると、誰もが完全に男性と同じキャリアプランを描こうとするのは、ちょっと危険だと感じる部分があって。
だから、自分のキャリアをセーブしなければならないことがくる可能性があることを念頭に置いて人生設計するようにしていますね。キャリアアップするにしても、どうしても過去の実績で見られる部分が大きいじゃないですか。だから「どこで一旦止まるか」って大事なんですよね。できるだけ上までいってから休職した方が、その後の自分の選べる選択肢が増えるんじゃないかなと思っています。
──なるほど。そうした点からも、先ほどおっしゃった企業選びの観点に「成長速度の速い会社」というのが入っていたということでしょうか?
その通りです。難しいことではありますが、学生時代のうちから、「自分が30歳になったら何ができるようになっていたいか」ということを考えておくのは、大事なポイントだと思います。
ただ、「女性だからキャリアを諦める」という風潮に負けてはいけないな、とも思うから、自分もできるだけ、「女性だけが家事・育児を負担する」っていう価値観の無い家族の形を作っていきたいとは思います。まだ将来どうなるかわからないですけど、仕事も好きなので(笑)。
──世の中の風潮が変わってきているとはいえ、そこは今後も取り組んでいかなくてはいけない課題ですよね。この話をお聞きできてよかったです。それでは最後に記事を読んでいる東大生へ向けてメッセージをお願いします。
「学生だからこそできること」はやっておいたほうがいいと思います。
社会人になってから、他の会社の人に報償なしにフラットにお願いできるのってかなり難しいんですよ。でも学生にはそれができる特権があるんですよね。私も学生時代に、就活の相談とか、卒論のインタビューで何人もの社会人の方を頼った経験があるんですけど、それは本当に勉強になりました。
あとは、私自身、学生のうちに長く時間をとって色々なところに旅行に行ったり様々な価値観に触れることはやっておいてよかったなと思うので。今後コロナが収まったら、そうした経験にも時間を使えるといいですね。
せっかく東大という環境で勉強できているのだから、その肩書きや、そこから得られる機会はフルに活用して、色々行動していってほしいと思います。みなさん、頑張ってください!
──本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました!
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