プログラム
東大 留学体験記③〜ノースイースタン大学(Northeastern University)〜
インタビュー・レポ
2024年5月30日、東大で、ゴールドマンサックス証券、ゆうちょ銀行を経て起業した宇根尚秀氏とマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク、日本産業パートナーズ株式会社を経て、東京大学で教鞭をとる田中謙司氏を呼んで講演会が開催される。
今回は、宇根氏、田中氏に登壇を決めた経緯、講演会を通じて伝えたいメッセージを聞いた。
UTmap編集部:
どのような関心から、今回の講演会にご登壇いただくこととなったのでしょうか。
宇根:
僕も50近くになってきて、残りのキャリア人生は20年くらいだな、と。それで、元々は大手企業に勤めていたんですけど、残りのキャリアは起業をしようかな、という大きな転機を迎えたんですね。その時、社会人としてのキャリアの集大成としての会社を作ろう、という思いと共に、他の人に自分の経験を共有していけたらな、と思いました。それこそ第1回講演会(詳細はこちら)でモデレーターを務めた後藤達也さんに感化されて、ボランティアで高校や大学で、金融や自分のキャリアなどについてお話させていただくようになりました。そんな中で今回の講演会についてお声がけいただいて、今まで培ってきた金融の知識、私のキャリアを共有することで参考にしていただける方がいるのなら、と喜んでお引き受けしました。
田中:
私は大学院を出て、コンサルティング会社と投資ファンドに行ったのち、大学に戻って研究者をやっています。普段学生と話していると、私が学生だった頃と比べてまじめな人が多いように思いますね。いろんなことを探索しながら、企業に勤める人もいれば、研究の道に進む人もいますし、自分の会社を立ち上げる人もいます。いろんな選択肢を、真面目に検討している人が多いな、というのが今の学生に感じる印象です。そうなると、私のように産業界とアカデミアを出入りするような人もますます増えてくるんじゃないかなと思いますし、そういったキャリアを考える上で、選択肢みたいなものを示せれば面白んじゃないかな、と思って今回の登壇を決めました。
UTmap編集部:
周りの友人などを見ていても、アカデミアへの興味はあるけれど、経済的なところで悩んでいる学生は多いですね。そういう人たちにとっては、すごく参考になるお話だと思います。
田中:
そうですね、アカデミアの魅力みたいなところはとても大きいとは思いますが、確かに経済的なところにいくつか問題があるのも否めません。ただ、東大としてもアカデミアの問題点、特に経済的なところについては解消の動きもあるので、徐々にそのあたりは整ってくるのかな、と思っています。研究室レベル、全学レベル共にお金が出るようになり始めていますし、産業界の実践力を大学に入れて、大学の長期的な視点は残しつつも、より実践的で社会に役立つような研究ができる仕組みを作りたいなと考えています。その走りとして、私が取り組んでいる事例についても講演会でお話しできればなと思っています。
UTmap編集部:
講演の詳細な内容は、当日に譲りますが、講演を通じて学生に伝えたいメッセージを一言でお教えください。
宇根:
私は大学時代、統計学が大好きで、工学部で統計学を学んでいました。一旦就職しましたが、3年たったら大学に戻ろうと思っていたんですね。結局私は戻らなかったんですけど、今大学での勉強が楽しい、っていう人もいれば、早く社会に出たい、っていう人もいると思います。やっぱり今、自分の学生生活を思い返すと、アカデミアで勝ち残った先生がそろっていて、いつでも質問できるというのは非常に恵まれた環境だと思うので、その環境をいかに生かすか、っていうのは今回の講演を通じて考え直してほしいですね。社会を知らないといけないんじゃないか、みたいな焦燥感を過剰に抱くこともないと思います。アカデミアと産業界は割と気楽に行ったり来たり出来るので、20代後半とか30代半ばになってから社会に出る、みたいな選択肢も今後一般的になってくると思います。今ある興味、情熱がわいているところに全精力を注いでやりきる、っていう方が僕はお勧めできますね。
田中:
私も言いたいこととしては近いんですけれど、東大生である、っていうことは結構恵まれていると思います。その一方、人に頼みごとがしづらい、自分だけで何とかしようと頑張りすぎちゃうところもあるのかな、と。自分でやりきるのも大事なんですけれど、同時にどんどん人に頼みごとをして反省を広げてほしいな、という思いがあるので、そういう話をしたいと思っています。また、アカデミアと産業界の距離が近づいている、という話は冒頭からずっとしていますが、いろいろな選択肢が出てきている中、自分のキャリア形成の一つのサンプルにできるような話をできればな、と考えています。
UTmap編集部:
どうしても、学生は一度企業に就職してしまうと、アカデミアに戻ることは難しいと考えてしまう傾向にある気がしています。一度、産業界を経験するメリットもあるのでしょうか?
田中:
私は総合工学の分野だったのですが、総合工学って、社会課題解決のためにどんな技術をどんなシステムとして応用できるか、というのを探る分野なんですね。それを経営とかビジネスの分野でどう使えるか、っていうのを模索する段階で大学に戻ってこられたので、産業界に明るい人が求められているタイミングでした。その流れはいろんな分野に広がっているので、どの分野にいても経営とかビジネスの感覚が求められている時代になりつつあります。そういう状況なので、一旦社会に出る経験は全く無駄にならない一方、分野によってはすごいスピードで競争が行われている、一分一秒を惜しんで研究しているようなところもあるので、そういう部分は徐々に変わっていけばいいな、と思っています。
宇根:
一旦社会に出る、今やっている研究をやりきる、どっちが正解ということはないと思います。本当に研究しかやっていないと後で社会に出るのは難しい、という部分もあるかもしれませんが、最後まで自分のやりたい研究をやれる人生ほど幸せなものはないです。大学の先生は自分の好きなことばかりやれているから、幸福度が高い、みたいなことも言われます。ただ、それは実力だけでなく運によるところも大きいと思います。そういった意味では、社会に出てジェネラリストとしての知識を身に着けるとか、専門性を高めるとかいろいろな道を検討してみるといいですね。その中で、専門性以外にも、AIがわかるとか、生物がわかるとか、英語もできるとか、自分がどういう要素をどのくらい身に着けたいか、そのイメージを早めに持っておくといいと思います。
UTmap編集部:
今回の講演の内容に限らず、キャリアに悩む学生に一言お願いします。
宇根:
自分が目指す人生にどういう要素が必要になるのか、っていうところを考えて、自分なりのマッピングをしてみるのが大事だと思います。一分野で専門性を極めるのもいいかもしれないけれど、2、3個くらい、自分がやりたいこと、好きなことって何だろう、っていう自分探しを20代前半でやっておきたかったですね。
田中:
一つ目としては、若いうちは選択肢を広げることが大事だと思います。宇根さんのマッピングの話もそうですけれど、視点・知識を広げてほしいです。選択自体はいつでもできることなので。
もう一つ、大きな流れの話になりますが、今の東大ができたのが百数十年前。基本的に学部、学科はその時の構成のままです。ただ、21世紀にはいって社会の構造が変革しつつある中、大学の構造もそれに合わせて再考される時代なのかな、と思います。今の若い人たちには、それを組み替える世代になってほしいな、と。日本全体の仕組み、世界の仕組みを組み替えるような視点に立って考えてくれる人が出てくれるとうれしいな、と思います。
開催場所:東京大学本郷キャンパス Haseko-Kuma-Hall 1階ラウンジ(スタバの入っている建物です。)
参加対象:東大生、大学生を中心とした全ての方(東大生以外の方も参加いただけます)
募集人数:100名程度
参加費:無料
主催:Ryoma Ventures
後援:東京大学応用資本市場研究センター
お問合せ:ryoma.ventures.ut@gmail.com
講演会申込リンク:【GS→起業 VS マッキンゼー→東大教授】異彩の経歴を持つ東大工学部OB同窓会
東京大学工学系研究科化学システム工学専攻修士修了後、2000年ゴールドマンサックス証券新卒入社。新卒生え抜きとして功績を残し、アジア地区のトレーディングチームを率いた実績と経験を有す。ゆうちょ銀行に転じ、投資戦略改革に参画。2018年より同行市場部門常務執行役員・経営会議メンバーとして銀行全体の経営・世界中多数のファンドの投資選定に関与。
2020年に折り返し地点を過ぎた残りの職業人生において自分の経験と知識を用いて社会課題解決に微力ながら資したいという思いからInvestment Labを創業。早稲田大学ファイナンス学科(MBA)修了。
博士(工学)。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク、日本産業パートナーズ株式会社を経て、東京大学大学院工学系研究科特任准教授、准教授、2024年2月より現職。専門分野は、データ駆動型の社会システムデザイン、ビジネス・サービスデザイン。企業との共同研究先を中心に電力、物流、小売、金融分野における社会課題をデジタル技術を活用して解決する研究を進めている。
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UTmapの記事をお読みいただきありがとうございました。