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【茶話日和】「あなたらしく」アジアを知る
インタビュー・レポ
新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます!
合格して歓喜溢れるのも束の間、その後に待つ一連の入学手続きや履修登録に忙殺され、中には初めての一人暮らしで不安に思う方も多いことと思います。そんな忙しい中、この記事に目を留めて下さったことに、まずは御礼申し上げます。
詩吟?あまり聞いたことないなぁ、と思う方がほとんどだと思いますが、中には祖父母が詩吟を嗜んでいた、という方もいるかと思います。この記事では、詩吟とはどんなものかを説明するとともに、我々東京大学詩吟研究会(以下詩吟研)の成り立ちや活動内容なども紹介してまいります。情報をみっちり詰め込んだものではなく、抒情的なものになりますが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
詩吟を端的に一言で言い表せば、漢詩の書き下し文や和歌に節を付けて唄うことになります。OBの話によれば、一昔前(三、四十年前)まで詩吟はよく知られていたらしいのですが、最近は知らない人が多くなってきたそうです。執筆者も詩吟研に入るまでは、詩吟が何なのかは知りませんでした。
漢詩はご存知の通り中国に由来しますが、日本の詩吟は、幕末の私塾や藩校で漢詩を覚えさせるために、調子をつけて素読したものの延長上にあったと言われています。また、日本で作詩がブームを迎えたのは意外にも古代ではなく、近代の明治時代になってからでした。そんなブームとともに形式が整えられていった芸能が詩吟です。
詩吟で最も特徴的なのは、言葉の後に付けられる「節回し」の部分になります。漢詩や和歌の言葉の部分はアクセントに従って、朗詠に近い形で唄いますが、文節や意味の切れ目などで、母音を伸ばして声楽的に歌うような部分が節回しになります。
茶道や華道のように、詩吟にも流派があり、流派間で節回しが少しずつ異なります。詩吟初心者はまず、この節回しを覚えることから始めることとなります。我々詩吟研は洌風流の先生のもとで学ばせて頂いておりますので、節回しも洌風流のものを学んでいきます。難しそう、と身構える必要は全くありません。節回し自体もそこまでは難しくなく、加えて、先生が譜面を用意して下さるので、基本的なものはすぐに覚えられます。
では、なぜ我々が洌風流のもとで学んでいるのか、その経緯について紹介します。
詩吟研は今年で60年目を迎える伝統あるサークルです。洌風流は今年で創流63年になる流派で、我々は現二代目宗家のもとで詩吟を学ばせて頂いております。上の写真は、昨年開催された創流60周年記念大会の際に撮った写真で、コロナの影響で二年も遅れての開催となりました。
洌風流初代宗家は様々な武勇伝もあり、人望の篤い方で、戦後間も無くして洌風流を創立しました。日中国交正常化の際、漢詩の専門家である石川忠久先生と中国を訪ねたほど、漢詩をこよなく愛し、漢詩にも愛されていた方でした。そんな初代宗家ですが、我々詩吟研の初代会長の親戚と親交があり、是非とも東大に詩吟のサークルを作ってくれと初代会長に頼み込み、そうして初代会長が創り上げたものが、今なお続く詩吟研になります。その際、初代宗家が、現役生からは一銭も謝礼をもらわない、という情け深い約束をして下さり、その約束に肖って今の我々もタダでお稽古をつけて頂いています。初代会長や早期メンバーは今でも時々顔を見せて下さり、お稽古後に食事に連れて行ってくれる時など、昔を懐かしむように、当時の話を色々聞かせて下さいます。
詩吟研の60年にわたる歩みは決して順風満帆だったわけではなく、むしろ波乱に満ちたものでした。初代宗家を亡くし、詩吟の認知度が下がるなどの影響でメンバーは大幅に減り、ここ二十年近くは正に風前の灯火といった様相を呈しています。こうした中でも、OB方や洌風流の方々の助力や励ましもあり、我々現役生は今も精力的に活動を続けています。
詩吟の認知度が下がったことにより、以前多くの大学にあった詩吟サークルが潰え、今では詩吟サークルのある方が珍しい状況となりました。こうした逆境の中だからこそ、まだ存続している詩吟サークルは繋がりを持とうと、SNSを通じて互いに連絡を取り合うようになりました。流派の壁などの問題を克服し、いずれはインカレへと発展していく契機もできつつありますので、今は正に変革の岐路に立っているという状況です。
数あるサークルの中で何故詩吟を選ぶのか、また、社会人にとって、数ある習い事がある中、なぜ詩吟を選ぶのか、そして、なぜ詩吟を長く続けているのか、一見無味乾燥に思える詩吟に対して、これらの疑問が浮かぶのは当然だと思います。これらの疑問に対して、我々現役生がこれまでインタビューしてきたOBや流派の方の話をご紹介します。
まず、ダントツで多い理由としては、「漢詩が好きだから」というものが挙げられます。当然と言えば当然かもしれませんね。詩吟では、より良い表現を追求するために、同じ詩を何度も繰り返し練習することになります。そうすると、自ずと詩人の気持ちに思いを馳せ、ふとした時に、その心に共感したと感じる瞬間があります。これが漢詩好きにとってはたまらいのです。かく言う執筆者もこのうちの一人なので、この理由には頷くばかりです。この記事をご覧の方で、漢詩好きの方がいらっしゃいましたら、是非見学に来てみて下さい。
次に、これも群を抜いて多い理由なのですが、大声を出して鬱憤を発散できる、というものがあります。この鬱屈したご時世、なかなか大声を出す機会はないものです。カラオケのように音の動きが細々としたものが苦手でも、詩吟ならば、母音を幾つかの定められた節に合わせて声の限り歌い出すことができるので、思いっきり声を出してストレスを発散できます。三、四年生になると、単位や卒論、就活などでかなりストレスが溜まりますので、詩吟で発散してみてはいかがでしょう。
また、社会人の方に多い理由なのですが、お稽古の雰囲気が好きで友達も沢山できた、というものがあります。詩吟というと、バカでかい声をいつまでも出させられるイメージを持つ方もいるかと思いますが(もしかしたら、そもそもイメージすらない方や、一時期ブレイクした天津・木村のあらぬ詩吟のイメージを持つ方が多いかもしれません……)、実はそうではなく、お稽古の時は和気藹々とした雰囲気で色んな雑談をします。種々の専門や職業の方の話を伺うことができ、これになるほどと思わされたり、思わぬところでためになったりします。尤も、笑いを誘う馬鹿話が一番多い気がしますが、これが醍醐味なのでしょう。
そして、学生にとって大事な理由として、サークルの掛け持ちがしやすいというのもありました。時間帯的にもほぼ他のサークルと重ならず、週一回なので、そこまで負担にもなりません。実際、今のメンバーも、OBも、囲碁、書道、空手、ピアノ、コーラス、民族音楽、日本舞踊、狂言など、様々なサークルと掛け持ちしており、むしろしていない方が珍しい位です。
最後に、個人的に印象深かったのは、「詩吟のあまりに独特な旋律に思わず足を止めてしまった」というものや、「他の人が絶対にやらないことを大学でやってみたかった」というものがあります。前者は新歓でそのまま連行されたのでしょうね〜(笑)。確かに、詩吟は今の我々がよく耳にする音楽とは大分異なる旋律で、初めて聴く方には衝撃を与えるかもしれません。後者も何となくわかるような気がします。実際、今大学で詩吟をやっている人はかなり少ないので、詩吟をやるだけで激レアキャラにはなれます。
詩吟は、一首吟じ終えたらもう倒れたって良い、というくらいの気概でやるものなので、声の大きさや声の張りももちろん評価には関わってきますが、一番大事なのは詩心を如何に表現するかです。
詩吟は最初、全部同じに聞こえるかもしれません。しかし、練習を重ねたり、人の吟を聞いたりしていくうちに、発声方法、抑揚、節回しなどの良し悪しがわかってきます。漢詩の意味を考えて、言葉をどのようなリズムで唄うか、声の大きさをどの位にするか、節回しの伸びをどのようにするかなど、細かなことに気を配り、そうして漸く詩人の気持ちに寄り添い、詩心を表現することができるようになります。また、ただ単に大声を出すだけで良いというのではなく、自分の声の質に合った漢詩、表現方法を選ぶことも大事で、これに関しては先生や先輩方とともに見つけて行くことになります。
詩吟にもコンクールがあり、上の写真がその際の写真になります。コンクールには確たる評価基準があり、いずれ良い成績を収めようと思えば、その評価基準をも念頭に入れなければなりません。
色々と御託を並べてしまいましたが、結局は正解などありませんので、最終的には自分の良いと思うものを目指すことになると思います。
サークルでの自己紹介や会食などで盛り上った時に、一芸を披露するよう求められるような場面に出くわしたことはありませんか?そんな時に詩吟はとても役に立ちます。
詩吟は伴奏に拘らなければ、何の道具も要らず、身一つでできますので、いつでもどこでも手軽に披露することができます。また、そのユニークな調べは、相手に強い印象を残し、場を盛り上げること間違いなしです。
実際、我々現役生全員が経験したことですが、クラスやサークルの二次会などでカラオケへ行った時、そこで詩吟を披露するとかなり盛り上がります。ただ、タイミングには気をつけないといけません。スタッフさんがドリンクを運んできた時に詩吟をしていると、かなり驚かれてしまいます。
また、OBから伺った話では、就職する際、履歴書に詩吟サークルに入っていたと書き込んだ所、面接ではそれを中心として話題が広がり、かなり好印象を持ってもらえた、ということもあったそうです。そして、別のOBの話ですが、新入社員の歓迎会で一発芸として詩吟を披露した所、すぐ周りに覚えてもらえたらしいです。
他に、多くのOBが経験したそうですが、友人の結婚式、披露宴で詩吟をした所、昔は縁起が良いとされていましたので、年長の方からはとても感謝され、逆に年齢が近い方は初めて詩吟を聞いて面白がることも多く、大変場が盛り上がるそうです。
やはり、レアかつユニークでいて、簡単に披露できるのが、詩吟の最大のメリットだと思われます。
私たちは通常、毎週木曜日の夜6時〜8時に、詩吟洌風流の宗家の道場でお稽古をつけて頂いております。ここで、そのお稽古の様子を簡単に紹介します。
お稽古では最初、全員一緒に発声練習をします。発声練習ではまず、滑舌を良くするために、北原白秋の「五十音」の詩など、アナウンサーのトレーニングにも用いられるものを幾つか朗詠します。その後、「あ、え、い、お、う、ん」の順に音階を歌います。音階の後は、漢詩二首を一緒に吟じて(合吟と言います)、これで発声練習は終わりになります。
発声練習の後は、一呼吸置いて、先に道場に着いた順に一人ずつ吟じていきます。吟じる漢詩は、強い希望があれば自分の好きなものを吟じても良いのですが、基本的には幾つか指定されたものの中から一つ選ぶことになります。一人あたり三、四回吟じ、一回吟じ終わる都度に宗家や先輩からアドバイスを頂きます。一回のお稽古につき二巡は周ります。時間が余れば、二、三人で合吟したり、連吟(一人二句ずつ吟じる)したりします。これだけ聴くと、かなり堅い印象を持つかと思いますが、吟の合間にお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしながら、雑談もします(先生が話し上手なので、お稽古より雑談の方が楽しい)ので、実際はいつもおもしろおかしくやっております。
8時に一回終了となりますが(むしろ、これからが本番)、いつもお腹を空かせている学生をそのまま帰すわけにはいかないという先生とOBの人情味溢れる計らいで、お稽古後にいつもお賄いを頂けます。上の写真がそのお賄いになります。これを頂きながら、様々な世間話をしたり、漢詩の話をしたりします。吟の合間合間のやりとりや、お稽古終了後のお賄いや世間話が楽しみで、ずっと詩吟を続けてきたというOBも多くいらっしゃいます。
次に、年間を通してどのような活動をしているか簡単に紹介します。
4月は新歓期で、駒場の学生会館の一室(音楽練習室か会議室)を借りて、詩吟の基礎を新入生に教えます。日程は例年新入生の都合に合わせております。先生の所でのお稽古は聞き稽古がメインになりますが、希望があれば先輩と一緒に吟じたり、独りで吟じたりすることもできます。
5月は五月祭で吟詠会を開催し、新入生はこれが初舞台となります。ただ、感染状況などの関係で吟詠会を開催できるかはまだ未定です。この他、全国吟詠コンクール東京都予選もありますが、二年目以降からしか参加できませんので、新入生は希望があれば見学のみできます。
6月には段位審査があり、条件を満たせば段位審査を受けられます。強制参加ではなく、希望すれば受けられます。また、これもコンクール同様、新入生は見学のみとなります。
10月には流派の記念大会があり、ここで現役とOBで合吟を行います。そのため、9月〜10月は通常のお稽古以外でも数回OBと練習を行うことがあります。
2月には、神保町にある学士会館の一室を借りて、現役、OBで吟詠会を行います。五月祭で吟詠会を開催できなかったり、参加できなかったりした場合は、これが初舞台となります。ミスしたり、詩文を忘れたりしても、先生や先輩が小声でこっそり教えてくれますので、初舞台の人間にとってはやさしい場になります。また、生の尺八伴奏に合わせて詩吟ができる贅沢な機会でもあります。
3月には全国吟詠コンクール区予選があり、新入生はこれが初のコンクール参加となります。5月のコンクールの予選でもあり、ミスをすると即失格となりますので、ミスが許されたこれまでの吟詠会とは異なり、ここで真の意味での緊張を味わいます。初コンクールの時、執筆者が最後まで立っていられないほど足をガクブルさせたのはここだけの話です。無論、どうしても嫌であれば、コンクールには参加しなくても良いのですが、ある程度モチベーションを保つために参加してきた先輩は多いです。
以上が年間を通しての活動予定になります。今年はいまだにコロナの影響が尾を引いており、全て予定通りに開催できるかはまだわかりません。
この記事で紹介してきたように、詩吟研は先生のご厚意や先輩方のご尽力のもと、初期費用ほぼゼロで伝統芸能を勉強できるサークルです。伝統芸能というと、敷居が高い、お金がかかるというイメージがありますが、詩吟研でなら手軽かつ気軽に始められます。また、詩吟ができると何かと役にも立ちますので、大学に入学したこの機に、是非詩吟を始めてみては如何でしょう。連絡お待ちしております。
Twitter:@UTokyo_Shigin
Gmail:shiginken@gmail.com
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